なんて、綺麗なメロディー。
まだ歌詞も何もないその旋律は、容易くあたしの胸の中に入ってきて、重い鎖で縛られたあたしの心をゆっくりとほぐしていった。
今までの辛かった記憶が走馬灯のように甦ってきて、気付けば鍵盤に雫がこぼれ落ちていた。
「…っ」
なんで?
どうしよう、涙が止まらない…
抑えようと思っても、止め止めもなく涙が溢れてくる。
メロディーだけで、ここまで感動するのは初めてだった。
…暁くんは、一体どんな想いでこの曲を作ったの?
その音に引き込まれるように夢中になって弾いている時だった。
「…柚姫ちゃん?」
ビクッ、と肩が跳ね上がった。
指を止め、そっと声のした方を振り向く。
そこには、驚いた顔をした暁くんがいて。
ただ真っ直ぐに、あたしを見つめていた。

