昼の長さは頂点を迎え、太陽が元気いっぱいに降り注ぐ。それからだんだんと木が色付いて、ついにハラハラと舞い散った。

クリスマスに貰ったヘアピンは、毎日耳元でキラキラ光って。クリスマスにあげた小さなぬいぐるみは、いつもゆらゆらと携帯を可愛く飾っていた。


「先輩?」

「ん?」

「雨‥ですね」

「ん」

「弾けない、ですね」

「うん」


低くて黒い空を眺めながら、なんだか無愛想な先輩。息は白く大気に溶けていく。


「帰りますか?」

「んーん。もうちょっと、このまま‥」


その言葉が、どれだけ私の胸を波打たせるか、解っていますか?

右腕に感じるその体温が、どれだけ私の心を締め付けているか、解っていますか?


--‥好きです、先輩。


そして年を改め、手の凍える季節。指に甘い匂いをさせながら、頑張ってと願いを込めて渡した。

放課後に会うことがなくなっても、その魔法の音色が褪せることはなくて。私に笑顔が絶えることもなかったけれど。


「ちゃんと言った?」

「ううん‥」

「言わなきゃっ」


隣に居られれば良いと思ってた。その顔が見られれば良いと思ってた。

だから、直接伝えてはいなかった。


「言わなきゃ、お別れだよっ!?」


そう。風の噂で、第一希望の大学に合格したことを知った。けれど、おめでとうを言うことも、メールに乗せることも‥出来なかった。

すれ違えば、向こうが口を開く前に顔を逸らして駆け出した。

だって、だって‥っ、そうしなきゃ、涙が溢れてしまいそうで。そんな顔を見せたって、困るだけでしょう?


そして、迎えた今日。


長い長い祝辞と、希望の言葉。それから、感謝と繁栄を願う歌。私は泣かなかった。でも--‥

各クラスの代表が、卒業証書を受け取りに流れていく中で、突然響いたあの人の名前と、元気なその低い声。

両手で受け取って、くるりと顔を見せて。


「‥っ、」


絶対に、分かってた。確実に私の瞳を見て、ニッと白い歯を見せた。

その瞬間、プツンと何かが切れて。堪えてたものを止めることが出来なくて。

歌で送り出さなきゃいけないのに、唄うことなんか出来なくて。


お祝いの騒ぎがだいぶ静かになるまで。教室に誰も居なくなるまで。

ずっと、ずっと

それは流れ続けた。