それからよく、私たちは放課後の屋上で会うようになった。でも、何を話すわけでもなく、奏でる金色のバイオリンに耳を傾けながら、だんだん長くなる夕方の空を眺めてた。

間もなく学年がひとつあがって、初々しい後輩も入ってきて。

クラスだって変わった。それに、多分‥変わったのは私も。


「ね、次のバレーボール一緒にやらない?」

「え?」

「去年ちらっと見たけど、意外と運動神経イイんじゃん」


何でも平均的な私だから、埋もれてしまっていつも目立たなかった。


「去年はさー、なんか話し掛けづらかったんだけど、なんか変わったね」


そんな言葉がやけに嬉しくて。


「よろしくっ」

「お、笑った」


頬を撫でる風も、周りの雰囲気も、空っぽだった心の中さえ、温かかった。


「ただいまー」


相変わらず返ってはこない挨拶だって。


「いただきまーす」


相変わらず独りきりの食卓だって。たまに笑いがこみ上げてくる位、寂しくなんかなくなっていたし。


「行ってきます」

「おー、行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃーい」

「‥、うんっ」


毎日が、キラキラと輝き始めた。


「おっはよ」

「おはよー」

「今日のバレーも勝つぞー」

「はは。今日から球技じゃないよっ」

「えー。じゃ、昼休みにやろ? ねっ」

「しょーがないなぁ。ふふ」

「ははっ」


私は笑顔でいる事が多くなったんだ。それは、


「おはよ」

「おはよ‥ございマス」


この人に、出逢ったから‥だと思う。

校内ですれ違えば、簡単な挨拶をしてくれた。その度に、向こうもこっちも友達からニヤニヤされて、なんだか、くすぐったくて。


「なぁ」

「はい?」

「お前、笑った顔のが可愛いな」

「、っ」


そんなことサラリと言ってしまうあなたに、恋をしていると気付いたのは‥いつからだろう。

その奏でる旋律が耳に届いた時から、心は攫われた。

そう‥それは、まるであの童話のように。


「ハーメルンの笛吹き男?」

「そうです」

「俺、笛吹いてるように見える?」

「違いますけど、その‥」



笛吹き男は報復のつもりでやったのかもしれないけど、その音色が子供たちの心を攫ったのは事実なわけで。


「その‥何?」

「な、何でもないです」


その音色は、魔法だったことに違いはなくて。