『………覚えてないし。』 急に真顔になって帰ろうとする一郎を、私は必死になって止める。 「待って。」 「っ、見たの!」 私が大声をあげたことに驚いたのか、一郎は足を止めた。 「…この前、街で田中くんと会った。」 そう、私は見たんだ。 私の中学時代からの親友である沙弥と、田中くんが一緒に歩いているところを。 たまらずその場を駆け出そうとしたが、沙弥が私に気づき声をかけてきたため、私は足を止めてしまった。 「……田中くん、笑ってたよ。」