夜になり、レティシアはベッドの中で眠れずにいた。


眠ってしまうと夢を見てしまう…。


自国が滅ぼされた後から、殆ど毎日悪夢をみるのだ。


だがやはり睡魔には勝てず、うとうとと夢の中へと引きずり込まれていく…。


今夜もいつもの悪夢を見た。





―――目の前で両親や兄、城の者たちが殺されていく。


そして城は炎に包まれ、みんな炎の中へと消えていった。


お父様、お母様と叫んでも返事はなく周りにも人がいない。


レティシア一人だけ…。


だが背後に気配を感じ振り返ると、自分の目の前に剣の先を突きつけられる。


「…お前も死ね。」


その剣の持ち主は…―――。




「っ…」


目を覚ましたレティシアは汗でびっしょりで、鼓動も速かった。


いつも同じ夢を見て、毎晩こうやって起きてしまうのだ。


夢で出てきた剣の持ち主の顔はいつもは分からないまま終わってしまっていたが、今回は違った。


剣の持ち主は…アルベルトだった。


あの深い青色の瞳が冷たく、恐ろしかった。


いつの間にか身体が震えていたレティシアは自分自身を抱き締めるように縮こまった。


ズキズキと頭も痛む…。


あんな人が自分の夫になるなんて…耐えられるのか不安になった。


確かアルベルトは第一王子であるとともに、このブルーシア国の騎士団の団長だったはずだ。


もしかしたら、彼自身の手で自分の両親や兄を殺したのかもしれない。


もしそうだったら…家族を殺した男と結婚することになる…。


いや、敵国の姫だからと言って命を奪われるかもしれない。


「……。」


そんな男の妻になって殺されるくらいだったら…―――。


レティシアは暗闇の部屋にあるテーブルの上の果物に目を向けた。


そこにあった果物ナイフをじっと見つめた。


その見つめる瞳は強く光っていた。