王のいる間に入ったレティシアは無言で王に頭を垂らした。


「どうだ?ここでの暮らしは慣れたか?」


金細工が施されている大きな玉座に座っているブルーシアの王は、目の前のレティシアを見下ろした。


「……。」


レティシアは答えず床を見つめているだけ。


王はそんなレティシアの態度に舌打ちし、頭を上げろと命令する。


それには応じ、レティシアは王を見上げた。


「ふん…その瞳の色は父親譲りだな…。忌々しい…」


レティシアの瞳は鮮やかな紅色。


彼女の父親はレッドライン国の王であった。


だが、数ヶ月前この国ブルーシアに滅ぼされた。


両親や兄、城の者たちは命を奪われたが何故か第一王女であるレティシアだけは生かされた。


最初は何故自分だけ生かされたのか疑問に思っていたし、いっそのこと両親たちと共に死んでしまえたらと毎日思っていた。


生かされた理由を知った時は…ただ絶望を感じた。


「まあいい。自分の容貌に感謝するんだな。わしの息子の花嫁にふさわしい姫だ。」


まさかこの王の息子である第一王子の妻になるなんて…思ってもみなかった。


「アルベルトはどこだ。アルベルトを呼べ!」


王は隣に立つ側近にアルベルトという人物を呼ぶよう命じた。


アルベルト…確かそれは自分の夫になる人物のはずだと、レティシアは思った。


名前は知っているが、会ったことはなくどんな人物なのか分からなった。


だがこの王の息子なのだから、きっと自分の力に自惚れている愚かな人なんだろうと考えていた。


少しすると、背後の扉が開く音がした。


そしてカツカツと近づいてくる足音にレティシアは少し緊張しながら、それが静まるのを待った。


「何かお呼びでしょうか、父上。」


低くて落ち着いた声が、この間に響いた。