「レティシア様がそうやって笑ったところ、初めて見ました。」


そう言ったレックスにレティシアは我に返って、さっと口元を隠した。


「別に隠す必要なんてないじゃないですか。いつまでも怖い表情してたら疲れますよ。」


自分はレックスにそんな表情を今まで見せていたのかとレティシアは思った。


でも確かにリーナと一緒にいる時にしか笑ったことがなかった。


リーナ以外、この城…いやこの国の者たち全員が自分の敵…そう感じていたのかもしれない。


そんな人たちの前で笑ってなんかいられない。


だが、レックスと話してみてそれほど悪い人ではないことが分かった。


自分に気軽に話しかけてくる時点で、他の者たちと違うのだ。


少しだけ…レックスには心を開けるのかもしれない…。


「そういえば…兄上と舞踏会に出席されるのでしたよね?」


レックスのその言葉に再び憂鬱な気持ちが戻ってきた。


「ええ、まぁ…。」

「僕も出席するんですよ。その時はお相手願いますよ。」

「あ、はい…。」


レックスとのお相手はいいのだが、問題は夫のアルベルトだ。


まだ一度も相手をしたこともないというのに、舞踏会当日はちゃんと踊れるのか…。


そんなことを考えていると、レティシアの気持ちもまた落ち込む。


レティシアの様子を見て、レックスはレティシアが何を考えてるのかすぐ分かった。


「兄上とはまだ踊られてないのですね?困りましたね、兄上に声を掛けておきますよ。」

「なっ…!ちょっと待って!!」


レックスは急に凄い形相で自分に掴み掛かりそうになるレティシアに慌てた。


「ど、どうしたんですか?」

「あの男になんて声かけないで!」

「で、でも…それじゃあ、舞踏会で…」

「いいのよ!大丈夫だから!!」


必死に訴えかけられ、レックスは苦笑いして頷いた。