レティシアは、椅子から立ち上がりバルコニーへと出た。


風がレティシアの長い髪を揺らす。


目の前に広がるのは、ブルーシアの街並みと青い海。


「…知ったって、いいことなんかないわよ。」


小さく呟き、海を眺める。


そんなレティシアをリーナはやれやれと苦笑いした。







まだ幼かった頃、レティシアは城の者の目を盗んでは城下町に行くことがよくあった。


その時に町の教会で一組のカップルの結婚式を目にした。


2人とも幸せそうで、特に印象に残ったのは花嫁が身に纏っている純白のドレス。


光に照らされた純白のドレスは輝いて見えた。


レティシアは色んなドレスを着たことがあったが、白のドレスは着たことがなかった。


帰って王妃である母親に白のドレスを着てみたいと言った。


すると母親は、


「白のドレスは特別なのよ。レティシアが大人になって、一番大好きな人と結婚するときにしか着ちゃダメなのよ。」


とレティシアの頭を優しく撫でながらそう言った。


「そうなの…。じゃあ、レティシア大きくなったら大好きな人と結婚する!そうすれば、白のドレス着れるもんね!」


好きな人と結婚をする、というよりその頃のレティシアにとってはただ純白のドレスが着たいだけ。


「そうね。」


くすくすと笑いながら母親は、レティシアの話を聞いていた。


だが、白いドレスは着ることが出来ても、一番好きな人とは結婚できない…。


母親はもちろんそのことをよく知っている。


自分の娘が、結婚して今のように笑っていられるかどうか…ただそれが心配だった。


願うのは、どんな相手でもレティシアを幸せにしてくれる人と一緒になってほしいということ。


その相手が例え、敵国の者だったとしても…―――。