結婚してから一週間経った。


アルベルトとその側近のラウルは城の回廊を歩いていた。


「そういえばアルベルト様…」

「…何だ?」


手元の書類から目を外さずにラウルの声に反応する。


「レティシア様とはまだ…仲良くなってないのですか?」

「……。」

「アルベルト様ー聞いてます?」

「聞いてる。あの女の名は出すな。」


そんなこと無理でしょうとラウルは溜め息と共に口から漏らす。


「あの女って…貴方の奥方様なのですよ?それなのに…」

「少し黙れ。書類の内容が頭に入ってこない。」

「そんなの当たり前でしょう。書類読むなら、椅子にでも座って読んでください。いくら時間に余裕がないからって何も歩いて読まなくても。」


ラウルがくどくどと話しだすとアルベルトは顔を顰めて、早足で歩き出す。


だが、ラウルもそのアルベルトと同じように早足で後を追う。


「まったく、そんな怖い顔してるから部下からも恐れられるんです。レティシア様だってそんな顔してたら近寄りたくないと思いますよ。…本当はお優しい方なのにその顔で台無しですよね。」


言いたい放題言い散らすラウルに頭がきたのか、アルベルトはラウルをその怖い顔で睨みつけた。


「ラウル、いい加減にしろ。その首が飛んでも知らないぞ。」

「はいはい承知しました。本当に怖いんですから。」


ラウルはアルベルトと幼い頃から一緒にいたせいか、身分に関係なく遠慮なく話せる仲だ。


だが、そのペラペラと話す口を縫いつけてやりたいとアルベルトは切に思っていた。


「…それに俺は優しくなんかない。」


聞こえるか聞こえないかの小さな声でアルベルトは呟いた。


その声はちゃんとラウルに届いていた。


ラウルは困ったような笑みを浮かべた。