ザザァ…―――
波の音が聞こえ、潮風が吹く…。
海を遥か遠くまで眺められる丘を歩く二つの人影。
西に傾き始めた、夕日陰がその二人をオレンジ色に照らす。
一人はまだ幼い女の子。
もう一人は腰が少し曲がった老婆。
二人は丘の先にある崖に向かっていた。
「ねぇ、お祖母ちゃん。あんなところに行って、何するの?あっちは崖だよ?」
「着いたら分かるよ。」
そう優しい口調で言った祖母はゆっくりと孫娘の手を引いて歩く。
そして目的地に着いた二人。
女の子は夕日の光を眩しそうにして目を細める。
崖の下は海。
ここから落ちたらきっと生きて帰ることなんて出来ないだろう。
海をぼんやり眺めていた女の子はふいに祖母の方を見る。
すると祖母は、そこにあった石が積み重なって出来た小さな搭のようなものの前にしゃがみ込み、祈るようにして目を閉じていた。
そこには花が供えられていてお墓のようにも見えた。
祖母の側に近寄り、女の子も真似をするようにして目を閉じた。
「私はね、毎日ここに来ているの。」
祖母の声で目を開いた女の子は隣に視線を向けた。
「これはなぁに?」
そう訊ねてみると、祖母は目を細めて微笑んだ。
「ある二人の為につくられたものだよ。」
「え?」
「愛し合った二人の…」
祖母は海に視線を移し、何処か遠くを見つめた。
「…昔々のお話。ちょっと長くなるけれど、聞いてみるかい?」