屋上への階段を、一歩ずつ踏み締めて上っていく。


最後の段を上りきり、ゆっくりと屋上へ続くドアを押す。


開けた瞬間、雨上がりの湿った風があたしの髪を巻き上げた。


「悠……」


奥で、腕を組みながらフェンスにもたれかかっている。


小麦色に日焼けした肌、綺麗に刈り上げられた頭、いつ見てもあたしより10cm以上高い背丈。


つい3ヵ月前までのあたしの元彼。



夏川 悠。



「……よう」


もたれかかっていた体を少しあげて、あたしに笑いかけてきた。



………反則だよ、その笑顔。



「何の用?あたし早く戻んなきゃ」


心のどこかでは話したいって思ってるのに、あたしは無視した。


「………うん」


悠は返事をしたきり、黙り込んだ。


早く戻んなきゃって、言ったじゃない。


時間稼ぎのつもり?


「あたし、もう……」

「俺、坂本と別れた」


身を翻して走り出そうとしたら、そう切り出された。



……いきなり本題ですか。


「別れた…?」


坂本さんは悠の彼女。


悠の浮気相手。


それが原因であたし達は別れた。


坂本さんは悠のことが大好きだった。


だから、別れることなんてないって思って疑うことはなかった。


「ほんとだから」


悠が別れても、今のあたしには何の関係もない。


「……そう。残念だね」

「だから、もう一回付き合って欲しいんだけど」




………は?





今なんて行った?


坂本さんと別れた?


だから付き合って欲しい?


「……何言ってんの?」

「酷いこと言ってるのはわかるけど……」

「有り得ないし。あんたとなんか、一生付き合わない」



あんな思いをするくらいなら、一生誰とも付き合わない。



ましてやあんたとなんかもっての他だよ!



あんな苦しくて悲しい思いなんか…………。