「ねぇ瞳、いっちー覚えてるでしょ?」

「え?」

「もう! 忘れたの? ドラムだよ。ドラムの、いっちー!」

「あ、あぁ……。そうだったね」

菜々は呆れた様子で腕を組みながらため息をついた。

「あ、場所は新宿ね」

「うん……」

「どうしたの? 何か、クラいよ?」

「何でもないよ」

「待ち合わせは七時だから、このまま真っ直ぐ行こうね」

「一回家帰りたい」

「何で?」

「だってシャワー浴びたいし、服も着替えたいし……」

「シャワーなんてさっき入ったじゃん。まぁ、店のシャワーだけど……。着替えなんてしなくても大丈夫だよ」

「でも……」

「家帰ってる暇なんてないよ。ほら行くよ」

菜々は私の手を引っ張り、

「お先に失礼しまーす!」

店を出ようとした。

「相変わらず仲が良いわね。お疲れ様」

店長は笑う。

自分の希望を聞いてくれない菜々に、強引に新宿まで連れて来られた。



私は、何かを期待していた。もしかしたら……。