オアシス

仲が良かった。


東京で、たった一人の友達〈菜々〉ーー



………………



午後六時ーー

私はライブハウスの近くの駅の前で菜々と待ち合わせをしていた。

今日のライブはアマチュアバンドで、菜々に誘われた。誘いを断ろうと思った。アマチュアだから顔も知らなければ曲も知らない。楽しめるかどうか、不安だったから。でも、


“たまにはストレス発散した方がいいよ”


という菜々の誘いに乗ることにした。

どうやらこのバンドには菜々の知り合いがいるらしくて、手売りでチケットを買ったと言う。私のぶんも含め、二枚。

“チケットを買わせるなんて……。何か、私利用されてるのかなって思ったけど、でも高い物じゃないし友達に協力するつもりで買ったと思えば嫌な思いはしないかなって”

そう言って菜々は苦笑いした。

心の中で私は、

“お人好しだなぁ……って言うか、私まで巻き込むなよぉ~……”

と嘆いていた。菜々は私の心の声が聞こえたのか、

“ライブだよ。絶対一人では行けないからぁ~!”

“はいはい。わかりましたよ……”



待ち合わせ時間の五分前に着いたが、すでに菜々は来ていた。

「早いじゃぁ~ん!」

「うん! ちょっと張り切りすぎた」

菜々は片方だけの八重歯を見せ、愛嬌たっぷりに笑う。

待ち合わせの最寄り駅から会場までは歩いて五分ほど。駅からは、それらしき人達がたくさん向かって行く。私達は、ライブへ行くと思われる人達の後ろを着いていく。