オアシス

「メイク。メイクアップアーティスト目指してるから」

「そうなんだ……。初めて聞いた。でも夢があっていいじゃん」

「私、この仕事してるのは、学校行くのにお金貯めてるってことでもあるんだ。そろそろ貯まってきたから来年の入学を考えてる」

「そっか……」

「まだ半年くらいは店にいるけど」

「……うん」

「あ、私、地元には帰らないよ。いつかは帰るかも知れないけど、しばらくは東京にいる」


菜々は、明らかに私に気を使ってる風だった。私には、何も聞いてこない。夢は何? とか、目標はあるの? とか。だってこの仕事してる以上はお金貯めてるわけだよね。とか何ひとつ聞いてこない。私は内心イライラしていた。なぜ聞いてこないのか。遠慮するなよ、と思っている反面、聞かれたら困るという恐怖もあった。何も目標なんてない。ただ、働かなきゃいけないと思っていたあの日。かなり切羽詰まっていたわずか数ヶ月前のことが、今鮮明に思い出される。人には言えない仕事をやっている自分が情けなく思うこともある。