高いヒールを履いているから階段から転げ落ちそうになり、手すりにかけている手に力が入る。

やっと降りきり地面に足がついたとたん、右足首をくじいた。固いコンクリートの上に、思い切り尻餅をついた。ハイヒールも脱げた。

「痛っ!!……」

お尻も痛いが、右足首もかなり痛い。ハスキーボイスのカラスが頭の上でカァカァと鳴いている。

「もう!!うるさい!!カラス!!」

右足首を押さえながらカラスに向かって怒鳴った。カラスも負けじと目を尖らせてより一層ボリュームを上げ、はるかを見下ろしカァカァと鳴いている。そして、カラスは、はるかをめがけて飛んできた。頭上をスレスレで飛んでいった。

「キャアッ!!もう……やだぁ……」

半ベソをかきながら後頭部を手で払う。脱げたハイヒールを地面に叩きつける。ため息ををつき何とか立ち上がり、ハイヒールを履いた。電線にはさっきのカラスがはるかをじっと見ている。バカにするかのように見下ろしながらカァカァと鳴いている。はるかは、ゆっくり、ビッコをひきながら広い通りまで歩いて行く。そして、右手を上へまっすぐに、指の先までピンとのばした。すかさず、ここぞとばかりにタクシーがとまった。はるかは、そのタクシーをクマで真っ黒になった殺意にも似た目で睨みつける。