この人に笑顔なんて向けられない。
でも
ダメよ、詩乃。
あたしは今プロの販売員なんだから。
「鳳塚さん、大丈夫ですので」
あたしを心配そうな顔で見る千尋にも笑顔を向けて一つだけ頷く。
“大丈夫、千尋。あたしはもう平気だから”
その言葉が通じたのか
「それでは失礼いたします」
千尋が浅くお辞儀をして戻って行った。
さぁ、これからよ、詩乃。
「これ、くれる?」
変わらない大地の声。
少し甘い、女を平気で誘惑しちゃうような声。
何度この声にドキドキしたんだろう。
「かしこまりました。熨斗のご用意は?」
「粗品で。これから本社に行くんだ」
「左様でございますか。お名前は入れますか?」
「いや、いいよ。内掛けにしてね」
「かしこまりました。ただ今ご用意いたしますのでお待ち下さいませ」


