私が兄に出来る手助けといったら、さっさと嫁ぐ、位のものでしょうが。兄が煩く言わないことをいい事に、私は甘えております。思い出の詰まった生家を離れるのはどうにも辛く・・
でも昔と違い、黒い霧が家全体を覆っているような錯覚に、近頃捕らわれます。兄の不安が伝染しているのでしょうか。


夜。
物音で目が覚め、私は床から明かりに手を伸ばし・・近くにいるモノと目が合いました。


らんらんと輝く異形の目。


私の悲鳴と同時に、白い影がさあっと間に立ちはだかり、黒々とした異形のモノは一瞬後、この世のものとは思えぬ叫び声を上げて、どたどたと戸の隙間から逃げていきます。


私へと、振り向く白い影。三角の耳、金の目と、長い尻尾。姿形は猫のようです。


首につけた鈴がしゃらん、と揺れこちらも闇の向こうに消えてしまいました。仄かに漂う甘い香りの中。私は呆然と立つしかありませんでした。


次の日。
侍女や下男が庭で騒いでおり、何事だろうと私は近付きました。


地面に、犬ほどもある鼠に似た醜悪な生き物の死骸が転がっております。きっと家に憑いていた物の怪だ、と下男は申します。昨夜のことは・・夢ではなかったようです。