『……悪い。少し待たせる』


絵利香は昔から面倒くさい。

一回“お願い”と言い出したら叶えてもらうまで折れないからだ。



「いや、いいよ。先に帰る」


『……は?』

「だから、先に帰るよって言ってるの」

『意味はわかってるけど……一人でか?』


この荒れた中、一人で?

だいたい、砂希は――。


「特に問題無いけど?それに、図書室にも寄りたいから。じゃあまた明日」


勝手に決定させて教室を出ていった砂希。

俺が口を出す暇もなく、あっという間に。



……機嫌悪い、のか?

ほんの今までのやりとりでどこにきっかけがあったんだよ。

“少し待たせる”としか言ってねぇよ。


「ほら、あの人行ったじゃない。教えてよ」


だいたい、砂希は俺をこの場に残して行っても何とも思わないのか。


『……どれだよ、わかんねぇのは』


早く終わらせて問いただしに行こう。


「これこれ!」


渋々と、絵利香の前の席に座った。

『数学か』

「どうしても解答と違っちゃうのよ」

絵利香の回答と正しい解答を見比べる。

公式は合ってる……なら。


『あった、計算ミス。なんで途中から2を3にしてんだ』

「あーら、本当だ!」

『何してんだよまじで。もう平気だろ、俺は行く』

「あ、待って。もう1問ある」


……なんでだよ。

俺はため息をつきながら、一度立った椅子にもう一度座った。


『早くしろ』

「なんだかんだ言っても一夜は優しいのね」


わかったから、次の問題――。


そう言おうとした瞬間だった。




フッ、と目の前が真っ黒で何も見えなくなった。



それと同時に、教室が一気にうるさくなる。