「麻弥は、後悔してるの?」


何かを悟られたのか、あたしが質問する前に砂希が質問してきた。

『何に?』

「朝日を好きになったこと、梨沙に勝負を挑んだこと、梨沙を知ろうと思ったこと」


そんなの、決まってる。


『してない』


全部、あたしが選んだ。


「なら、大丈夫」

『こんなにどろどろした気持ちでも?』

「その気持ちに、逃げずに向かい合うところが麻弥らしい」

そんなこと言われても、あたしらしいってわからない。



『じゃあ、砂希は?』

「…………」


砂希が初めて間を開けた。

でもそれは一瞬で、何かを決めたのか、口をひらいた。


「あたしは、逃げたの。一番卑怯で狡い方法だったけどね。

それを周りの人が、止めてくれたから。気付かないうちにそばにいた人が」


――――似てる。


その顔、梨沙とそっくり。

梨沙が福田くんに向ける笑顔と。


顔のパーツとかではなくて、別の何かが。


「だから、大丈夫。麻弥には麻弥がついてる」

『なに、それ……』


「麻弥は、きちんと選択できる自分を知っている。たとえそれが間違った方向にいっても、麻弥は一人じゃないでしょう?」


砂希はそう言って、後ろを振り返った。

目線はあたしではなくて、屋上の出入口。

そこにいのは、


「麻弥、ここにいたの?」

……菜々。


『どうして……』


こうもタイミングよく菜々がここに?

意味を込めて砂希を見つめた。



「あの子が一番麻弥の心配してる」

ポソリとつぶやいた砂希の声は、きっとあたしにしか聞こえなかった。



「一緒に帰ろうかなって思って探してたんだよ」


菜々は、こういうとき何も言わない。

いつも、何にも触れてこない。

それが少しだけ、寂しいときもあるけど、


『ごめんね』

「ううん。時間あるなら、新しくできた喫茶店行かない?」


でもあたしを元気づけようとしてくれる。


『行く!』


だから、砂希の言うことは、本当に外れがないと思う。