『梨沙』


梨沙が本を読んでいるのに気づいて、梨沙の席へ寄った。


「あ、麻弥。この本面白いね」

『でしょ?続きまた持ってきてあげるね』


軽く笑いかけた梨沙。

少しずつ、笑ってくれるようになったね。

それは、心を開き始めてくれたと思っていいのかな。



「……砂希、どこ行くの?」


「課題提出とジュース」

「ん、行ってらっしゃい」


梨沙とよく似た顔の砂希が、教室を出ていった。



あたしは、知っている。


梨沙とあたしが話すとき、砂希は必ずどこかへ行くか、少し距離をとることを。


何故かはわからないけど……。



「梨沙ー」


梨沙を呼ぶ声が、した。

それは少し低い声で、あたしの耳が一番反応する声。


「どーしたの朝日」

「俺間違ってすっげぇ甘いチョコ買っちゃったんだけど、食わない?」

「食べる!全部もらう。砂希と分ける」

「ははっ。そういうと思ってた」



梨沙は、喜ぶ。

福田くんは、笑う。


たった、それだけのことなのに。



――あたしに入る余地はない。



そう言われているような気がしてしまうあたしは、きっと歪んでいる。