『え……』
また先生に見透かされて、もう動揺を隠せなかった。
なんで知ってるんですか。
何も言ってないはずなのに。
「ね、ねぇ、砂希!!どういうこと?誰かに、落とされたってこと?」
あたしよりも梨沙のほうが慌てていた。
あたしの肩に手を置いて揺さぶってくる。
『ちょっと梨沙、痛い。落ち着いてよ……』
梨沙にそう言いながらも、あたしの意識は先生のほうに行っていた。
「一番上から落ちるなんて、そうそうないことよ?それに、わたしが状況説明を求めた時に少し黙ったでしょ」
もっともなことを言われて、あたしは何も言い返せなかった。
エリカを庇いたいわけじゃない。
だからといって、責めたいわけでもない。
話の続きを、したいだけ。
その話に、このことは邪魔になるだけなんじゃないかと思ったから話したくなかっただけ。
「砂希ちゃん。顔上げて、こっちみて?」
先生に言われて、いつの間にか上がっていた目線と共に顔も上げた。
「あのね。砂希ちゃんは運動神経や反射神経が優れているのは知ってる。
――けど。
もし頭を打っていたらどうするの。
変な落ち方をして足や腕を骨折する場合も考えられる。
命の危険だって、あるのよ」
あたしの目をまっすぐ見て言った。
その顔に、やわらかい笑顔はカケラもなかった。
『ご、めん、なさい』
あたしはここで初めて、どんなに危ないめにあったかを理解した。
もし落ちたのが梨沙だったら、と考えると梨沙にどれだけ心配かけたかも。
真剣な言葉に、ちぐはぐな“ごめんなさい”しか出てこなくて。
昔、何か悪いことをしてお母さんに怒られた時のような気分だった。
「うん、大丈夫大丈夫。わかってくれたならいいの。砂希ちゃんが悪いことしたわけじゃないんだから」
先生にはまた笑顔が戻っていて、それはとても満足そうなものだった。