「…砂希」

それは、低くて小さな声だった。


『なに』



―――グイッ



『え、ちょっと何?』


一夜に急に腕を引っ張られたあたし。

そのまま一夜の胸の中へ。


――ギュウ。


…抱きしめられた。


『ねえ、何!?』

「黙ってろ」


一夜の腕の力がまた強くなった。


あたしは仕方なく、抵抗するのをやめた。


あったかい。


前に倉庫に閉じ込められた時も、こんな感じだったな。


とか思いだした。



「もう少し、このまま…」


一夜の弱々しい声なんて初めて聞いた。


たぶん、倉庫の時とは逆。


だから、あの時の一夜と同じように、今度はあたしが一夜の背中に腕をまわした。


トン、トン、とゆっくり優しく背中をたたいた。



「砂希」


『なに』


「……」


一夜は何も言わなかった。

ただ、あたしの名前を呼んだ。



――あたしの中で、何かがつながった音がした。