「目ぇ逸らすな」


『わかってるよっ』


もう1度目を合わせる。


『あたしは麻生静夜が……』


………言えない。



一夜の目を見て、言えない―――


『…っ一夜には関係ないでしょ!!』



もう逃げるしかなかった。

このままここにいたら、ポロっと口から出ちゃいそうだった。


麻生静夜との約束が―――。


だから一夜の話し方って困る。

なんでも話してしまいそうな……。


あたしは素早く扉まで走ろうとした。



――パシッ



一夜に手首をつかまれた。


「逃げんなよ!」



大きな手

強い力

痛い手首



これは、さっきと同じ――……



『ぃやっ!!触んないでっ』


掴まれていた手を必死で振り払った。

また、大きな影が、迫ってくる前に。



――――ま、った。


ここ、どこだっけ。

何してたっけ。


あたしは誰といる?

誰が、手を掴んだ?



「お前、なんで震えて…」

『え、あ……違う』


「どう、したんだよ、お前」


違う。


あたしの手を掴んだのは、


一夜だ。



『違うよ、違う。そうじゃない!!』


麻生静夜と一夜は全然違う、違うのに。


……一瞬でも重ねてしまった自分が、どうしようもなく嫌になった。


そして、今さら何を言っていいのかわからず、言っても言い分けにしかならないと思うと上手く言葉を発せなかった。



違うの、信じて。

一夜の手を振り払いたかったわけじゃない――