Fahrenheit -華氏-


そこで親父が考えたのが、他社からのヘッドハンティング。


親父の古い友人の娘で長い間アメリカ暮らしをしていた女がいる。という話は前々から聞いていた。


親父は半年間かけて口説き落として、今年のはじめようやくその女は落ちたらしい。


「ニューヨーク大学を飛び級、おまけに首席で卒業。頭の良い子だぞ」


とちょっと前親父はほくほく顔で俺に喋ってたっけ?


もちろん彼女をヘッドハンティングしたが、何しろこの会社の内部のことはゼロからのスタートな訳で、新部署立ち上げの際、俺が異動になってその部署の部長になることを義務付けられた。


「彼女のことを親身になって面倒みてやれ」ということだ。


俺一人だと心元ないというので、俺が一番信頼している部下の佐々木までも異動させるという徹底振りだ。



すまん、佐々木。お前までも…


何度謝ったか。


と言うのも、俺はこれが体の良い左遷だと思っているからだ。


去年の9月ぐらいから俺のいた物流管理部は成績ががた落ち。


会長である親父に激怒されて、ノートパソコンを投げつけられるという惨事もあった。


それでも周りは俺が会長の息子だから、苦労がない甘ちゃんだと噂する。


たまにはいいじゃないか、左遷も。良い勉強になるんじゃないか。


そんな目で見てくる。



ケッ



誰が好き好んであいつの子供に産まれたかってーの。


こうなりゃとことんまでやってやろーじゃん。



見てろよ!