Fahrenheit -華氏-


「その女がどうしたの?まさか好きになった?」


紫利さんは、のんびりと言った。


あまり敵視を感じられない穏やかな声だった。


紫利さんはホントに俺の心を必要としてないんだね。


でも、それが楽でいい。


「まさか」


俺は笑顔で答えた。


「会社の部下だよ。それに俺はないって言われた」


「何それ?どういうこと??」


紫利さんが目を輝かせて、むくりと頭を起こした。


髪の毛を梳いていた俺の手が離れる。


「……いやぁ。大したことじゃないけどね」


俺は会社での柏木さんの姿と、居酒屋での会話をかいつまんで話し聞かせた。


「へぇ。啓人をダメな女の子もいるんだぁ」


それ、裕二にも言われまシタ。


「って言うか、俺って周りが言うほどイイ男?」


何気なく聞いてみた。


それなりにもてる自信もあったし、女の子の扱いにも慣れてる。


だけど柏木 瑠華にはどうしてもそれが通じないらしい。


もしかして、俺は思ってるより良い男じゃないのかも……


なんて自信を失くしかけていたところだ。





「あら。啓人はイイ男よ。だけど同じだけワルい男」


紫利さんは意味深に微笑んだ。