頭が良くて会話も上手くて、美人で、体が良くて色っぽくて、適度に下品。
紫利さんも俺の体だけを求めているわけだから、付き合いはひどく楽だった。
いつものホテルの最上階にあるバーに到着すると、和服姿の紫利さんがカウンターで一人バーボンを飲んでいた。
「あら。早かったのね」
俺を見つけて、紫利さんが手を上げた。
「走ってきたよ。着物、綺麗だね」俺は紫利さんの頬にキスを落とす。
ふわり、と上品な香りが漂ってきた。
「嘘おっしゃい」紫利さんは赤い口紅を引いた色っぽい口角を上げてちょっと笑った。
カウンターのスツールに腰を降ろし、バーテンに、
「ギムレット」と短く注文する。
「少し薄めにね」
紫利さんが、人差し指と親指の間を二センチほど空けてバーテンに微笑みかけた。
「かしこまりました」
バーテンが静かに返事を返す。
「何で?」
「何でって、飲んできたんでしょ?」
「あ、もしかして酒臭い?」
俺は思わず口を覆った。
紫利さんは笑いながら、首を横に振った。
「啓人はいつもいい香りよ。あなたの香水って大好き。
お酒が入ってるかどうかなんて、匂いじゃなくてもすぐ分かるわ。お水を何年やってたと思うの?」
ちょっと意地悪く、でも妙に色っぽく紫利さんは微笑んだ。



