Fahrenheit -華氏-


『今日が何の日か知ってるでしょ?』


綾子は俺の言い訳にも一切耳を貸さないと言ったように、勢い込んだ。


「4月1日」


『ふざけんなっ!今日は、外資物流管理事業部の立ち上げの日でしょ。あんたそこの部長でしょーーー』


「今日からね。昨日までは物流管理情報部の部長だったの」


『うっさい!降格させられなかっただけでもありがたく思え』


そう


物流管理部は今まで国内を中心に動いていたのに、今春から海外まで手を伸ばすことになったのだ。


昨日まで俺の所属していた物流管理情報部はいわゆる「製品の流れを管理する」仕事のことで神流GROUPの中枢であると言っても過言ではない。



つまり顧客からの製品受注や製造工場への生産発注と、商品が顧客の元へ届くまでの流通工程の全てに携わる仕事のことだ。



物流管理情報部の部署では小さなものでは食料品から大きなものだと住宅関連をも扱う。


海外との取引は親父が以前にも何度も考えていたことだった。だがなかなか実現せずにいた。


第一の理由に人員の不足を挙げられる。


物流管理をこなしている社員を外資系に回そうかという案も出ていたが、いかんせん語学能力が長けている人間が見当たらないのだ。



だが言語能力が長けているだけでは用を満たさない。


ある程度物流管理に携わっていて、商品のことを知り得、それでいて言語能力に優れている社員など、この社内には残念だがゼロに等しい。努力でどうにかなる仕事ではないのだ。経験と、頭脳が必要とされる仕事だ。