Fahrenheit -華氏-


国道418号線沿い。


もう少し北上すると恵比寿ガーデンプレイスが見える。


その手前に高層のホテルが建っている。ここからでもそのノッポの先っちょが見えるぐらいだ。


歩いて行けない距離でもない。


俺は携帯をもう一度開いた。




メール受信:紫利さん


やっほ~ケイト♪元気してる??


やっとオーストラリアから帰ってきたのよ。


いつもの場所で待ってるわ。来れたら来てちょうだいネ。





俺は携帯を閉じると、スーツに仕舞い込んだ。


紫利さんは、俺より5歳も年上の現在31歳。


大学病院の教授を勤める夫の夫人で、暇を持て余してる有閑マダムだ。


旅行好きで、しょっちゅう世界中を飛びまわっている。


たまに帰国したかと思いきや、旦那をほったらかして俺と遊ぶ始末だ。


前に一度ベッドで聞いた。


「旦那はいいの?」


もちろん建前だが、旦那にバレたらこっちもただじゃ済まされないからな。


「いいのよ。だって二十も年上のおっさんよ?若くてかっこよくて元気な男がいいに決まってるわ」


と笑い飛ばしていたっけ。


「じゃ、ホストとでも遊べよ」意地悪く笑うと、


「いやよ。もうお水は結構」


そうなのだ。彼女は銀座の高級クラブのホステスだった女。


旦那との馴れ初めは、言うまでもなく客とホステスという間柄から。



彼女に関してはこれしかしらない。