Fahrenheit -華氏-



マックスは壁に背をもたれさせ、タバコに火を灯している。


涙を拭うと、あたしは彼を見上げた。


「This is a nonsmoking area.(ここは禁煙よ)」


だけど彼はあたしの言うことには耳を貸さないで、「I'll take airport then.(空港まで送るよ)」と眉を寄せた。


ちょっとは悪いことをしたと思ってるのかしらね。どこか後ろめたそうだ。


「No, thank you(いいえ。結構よ)」





あたしは決めたの。



自分の足で歩いていくことを。



誰の助けも必要とせず、誰にも左右されずに生きていくことを。





「さようなら」




あたしは最後にそれだけ言ってマックスに背を向けた。


この言葉が意味する言葉を―――彼は知っていたのか



もうそれすらも考えることが嫌になっていた。





JFK空港から15時間程かけて乗った飛行機。


最近は何度も往復した空路だけれど、この日のことだけはやけにはっきりと覚えている。


東京までの片道チケット。


あたしはそのチケットを握りながら、成田へ向かう飛行機の中、もう会うことはないだろう最愛の娘のことをずっと考えていた。