Fahrenheit -華氏-



なんとなくお開きの流れになったのは、夜も22時近くだった。


実に三時間以上この店に居た計算になる。


会計を済ませると、(もちろん俺払いね。経費では落とせません)


「少し払います」


俺はそれをやんわりと断った。瑠華って律儀だな。他の連中はお喋りに夢中だってのに。


「二次会、カラオケ行く人~~~?」


「はいは~い♪」なんて盛り上がってるし。


「部長も行きますよね、カラオケ」と二次会を仕切る役に回った瀬川が当然のように笑顔で俺を振り返った。


「いや…俺は……」


めんどくせぇ。早く帰って瑠華と二人きりになりたい。


「「「行きましょうよ~」」」


と女の子たちが揃って俺を見る。


「もちろん柏木補佐も♪」と瀬川が俺の隣に居る瑠華に目配せする。


場の雰囲気を見ると、俺達二人を除く全員が参加のようだ。


ここで俺達が抜けるわけにもいかない。


はぁ…


俺は気づかれないようにこそっとため息を吐くも、


「はい。行きます」と返事を返した。