Fahrenheit -華氏-



こ、怖い……


女の子ってそんなこと考えてたの―――??


無理…無理無理無理!!絶対無理っ!!!!


「モテモテだね、啓人。お疲れ様」


そう言いながら登場したのは、当のご本人―――桐島だった。


客としてではなく、白いシャツにギャルソン風の黒いエプロンを腰から下げてるところを見ると仕事中らしい。


なるほど、女の子たちがあれこれ噂するほどの甘いマスク。しかも店の制服妙に似合ってるし。


「「「キャ~~~!!」」」


と女の子たちが甘い悲鳴を上げる。


???


全く状況が掴めていない桐島は頭にいっぱいの?を浮かべてキョトンとしている。


「何、仕事?」


女の子たちの危ない妄想に、若干うんざりしながら俺は桐島に聞いた。


「うん。今日金曜日だって言うのに人数足りなくて、急遽入らされた」


「お前も大変だな」


「そう?結構楽しいよ」と言いながらサービスだとか何とか言って、俺の前の筍の煮物を置いた。


左の薬指にはめたプラチナのリングがキラリと光る。


「マリちゃんは元気?もう安定期に入った?」


「うん。元気過ぎるぐらい。つわりもおさまったし、予定日に出産できそうなんだ」


照れくさそうに笑った桐島は、やっぱりすごく幸せそうだった。


一ヶ月前の結婚式のことを思い出し、俺もほんわか温かい気持ちに。


良かったな。桐島……


「あ、そうだ。これ、俺からのサービス。啓人にはお世話になったから」


そう言ってコトリとテーブルに置いたのは、麦焼酎のボトルだった。


黒いボトルに白いラベル。“閻魔”と書かれていた。


「うぉ。俺の好きなやつ」


「黒麹好きだったよね?キープして置くから、名前書いてよ」


キープ…?ラッキー♪


はい、と手渡されたマジックを受け取り、いそいそとキャップを開ける俺の周りで女の子たちがにやにや。


―――………


俺、マジで帰りたくなってきた。