彼女は……離婚してどれだけ涙を流したろう。


どれだけ、傷ついただろう。


俺には計り知れない。


ただ分かるのは―――彼女が今でも娘のことを愛している……という事実。



『そうやって……忘れていってしまうんですね』



以前、柏木さんが俺の母親のことを聞いてきたことを思い出す。


そのときの彼女の顔に、悲しみのような寂しさのような、不安的な感情が浮かんでいた。


桐島の結婚式のときもそうだ。他の男の子供を宿したマリちゃんに「母親でしょう!しっかりなさい!」と叱っていた。


あれは、俺の母親に、マリちゃんに―――自分を重ねていたんだ。




愛せなくてごめんね。


手放してごめんね。




柏木さんは顔を覆ったまま、小さく嗚咽を漏らした。


丸めた背中が細かく震えている。


愛してる―――


なんて簡単に片付けられる感情じゃないな。


愛よりももっと大きな。俺には計り知れない感情なんだ。



俺は柏木さんの背中にそっと手を置き、彼女の背中を撫で上げた。


こんなことしても…


柏木さんの悲しみが薄らぐわけない。


気休めにしかならないだろうけど。



それでも俺は撫で続けた。