Fahrenheit -華氏-





話がややこしくなってきた。


俺は混乱する頭を整理するために前髪をぐしゃりとかきあげた。


柏木さんは小さくなったタバコを灰皿に押し付けると、俺の手にそっと自分の手を重ねてきた。




「すべてお話すると申し上げたでしょう?すべて……


あなたには知ってもらいたい」




俺は手を額から離すと、柏木さんを見た。


彼女はちょっと……そう、ほんのちょっとだけ悲しそうに眉を寄せた。


これから話す事実が、俺にとって良くないことを意味しているような笑みだった。



柏木さんは上体を屈ませると、ダンボールの中に再び手を突っ込んだ。


写真らしきものを手にしている。


「これが…あたしの元夫です」


そう言って差し出された手元を見て、俺はごくりと喉を鳴らした。


マックスがどんな男かってのは気になっていた。


柏木さんが愛した男。


そいつの見た目を意識しなかったことはない。


ベールに包まれたそいつの姿を今、ようやく目にすることができる。


恐る恐ると言った感じで写真を受け取り、俺は写真を覗きこんだ。




写真には随分と親しげな男女が二人肩を寄せ合い、こちらに向かって笑顔で手を振っている。


ズキリと胸の奥に思いものを感じる。


だけどそれから目を逸らしてはいけない。


しっかりと確認するよう、俺は写真を握った。


一人は柏木さん。


染めていない黒髪をきれいに夜会巻きにまとめ上げてあり、今より少し濃い目の化粧で、深いネイビー色の光沢のあるドレスを着、手にはシャンパンが入ったグラスを持っている。


顔には楽しそうな笑顔を浮かべていた。


でも何でかな……


その笑顔を見てもちっとも楽しそうじゃない。写真用に無理やり浮かべた、っていう感じだ。




そして彼女と腕を組んで同じように手を振っているのが




こ、これが柏木さんの元夫!!!??