Fahrenheit -華氏-




たぶん俺は…怖かったんだと思う。


何があっても諦めないと心に誓った筈なのに。


俺が柏木さんの手に自分の手を重ねたのは、自分がそうして落ち着きたかったのもある。


しっかりしろ啓人!


こんなのらしくないぞ!!


柏木さんには散々驚かされてきたじゃないか。


今更何を言われてもひるむまい。


例え柏木さんが過去にAV嬢だったとしても…だ。


あ…それややっぱヤダかも…でも、ちょっと見てみたいかも……


って違~う!!


俺は!!


例え柏木さんがAV嬢でも、この愛情に変わりがない!!



だからドンとこいだ!



柏木さんはダンボールから一つ雑誌を取り出すと、テーブルに置いた。


気を落ち着かせようとしているのか、近くに置いてあったタバコの箱に手を伸ばす。


同じく近くに置いたマッチ箱も手にすると、一本擦った。


リンの匂いが鼻につく。


どこか懐かしい匂いに、俺の心もちょっとだけ落ち着いた。


雑誌に目を落とす。


アメリカから持ってきたものだろうか、こっちでは見ない雑誌だ。


それも女性向けのファッション誌。


「へぇ柏木さんもこんなの読むんだね。ビジネス誌しか読まないイメージあったけど」


「普通に見ますよ。このページ見てください」


柏木さんはそう言ってページをぺらぺらとめくった。