「あたし……でも…」
足取りを緩めて柏木さんが呟いた。
まっすぐに前を見る視線は揺ぎ無い。
姿勢に気を遣ってるから、と言っていたけど彼女の纏う凛とした雰囲気はこのまっすぐな強い視線にもあると思う。
「あの人は確かにあたしに対して誠実な夫じゃなかった。
けれど男としては、完璧でした」
男として完璧―――
彼女の言葉には威力がある。
彼女の視線は揺るぎがない。
まるで鋭い何かに突き刺されたような痛みを心臓に感じて、俺はちょっと胸に手をやった。
思いのほか早いスピードで鼓動が波打っている。
夫でなく、家族でなく
男として、柏木さんはあいつを愛していたことに、間違いはない。
それを考えると、俺の心臓はキリキリ痛んだ。