少しの間抱き合っていたが、
俺の方から体を離した。
これ以上くっついていると、どこか目立たない場所に連れて行って今にも押し倒しそうだったから。
「行こうか」
そう言って柏木さんの手を自然に握る。
「……はい」
ほんのちょっと微笑んで、柏木さんも手を握り返してきた。
こんな風に自然に手を繋げるのが嬉しい。
ゆっくりとした足取りで歩きながら、俺は何となく聞いた。
「さっきの話で柏木さんの言いたいことはわかったけど、柏木さんはその顔で嫌な思いをしたことがあるの?」
俺の問いに柏木さんはゆっくりと頷いて、俺を見上げてきた。
「元夫が―――不覚にも、あたしの顔だけは好みだったらしく、それはそれはいつも“You're adorable(可愛いな)とか、be fair of face(きれいな顔してる)って何度も言われました」
ああ…それで……
さっきはあんなに食いついてきたんだ。
「最初は…嬉しかったんですけど、何年もするとさすがに“あたしって顔だけなの”って気がしてきて」
「その気持ちすっげー分かる」
俺はちょっと笑った。
だけど
ちょっと待て!
俺とMの好みは一緒だってことか??
「まぁそれだけなら良かったんですが、あの人…あたしの友達の器量が良くないって、彼の友達とバカにしていたんです。
それが許せなくて」
あたしの友達…すごく良い子でチャーミングでした。
そばかすが頬に散っていて、笑うととってもキュートで愛嬌がある…
柏木さんはまるで自分の妹のような感じでその友達のことを説明すると小さく笑った。



