Fahrenheit -華氏-



「俺のひそかな自慢。体脂肪率一桁。腹筋割れてるよ?見る、見る?」


俺は照れ隠しに笑った。



あとで……


柏木さんは意味深にそう笑いながら囁いて


俺の胸に顔を置いた。







「―――あたし…ホント何でもっと早くに部長と出会ってなかったんだろう……」





柏木さんの声が泣きそうなぐらい震えている。







道行く車のテールランプが眩しい。


だけどそれ以上に柏木さんが眩しい。


俺の胸元にある顔は小さくて、温かくて―――でもとても頼りなげにぼんやりと輪郭を滲ませている。




どうしよう…俺。


こんな道端なのに、今すっげー柏木さんを抱きしめたい。


しっかりと自分の意思を持って、強い筈なのに


過去に振り回されたり、小さなことで悩んだりしてる。


彼女を護りたい。




俺はおずおずと柏木さんの背中に手を回した。






「だ…抱きしめてもいいでしょうか…」





恐る恐る聞くと柏木さんはちょっと顔を上げて、


「変な人…」と言って笑った。


そんなこと聞かなくてもいいのに。彼女がそう言い切る前に、俺はぎゅっと彼女を抱き寄せていた。




こんな街中で、それもメインストリートで抱き合っている姿を会社の誰かに目撃されたらどうしような―――



でも



知られたっていい。



俺は胸を張って言える。






「この人が好きです。大切にしたい」



と―――