Fahrenheit -華氏-


コンビニを出て再び歩き出す。


「さっきの客さ、ずっと柏木さんを見てたよ」


「え?さっきの客って…コンビニに居た若い男の子ですか?」


柏木さんがびっくりしたように俺を見上げてきて、そして「それは無いと思いますよ」とほんのちょっと笑った。


「ぜってー見てた。だって柏木さんきれいだもん」


俺の言葉に柏木さんの足取りがぴたりと止まる。


「男の人って……やっぱり美人が好きなんですね」


「女性もそうじゃない?イケメン好きでしょう」


「イケメン…」


「あー…かっこいい男ってこと」


「ああ…」


肯定とも否定ともつかない返事で、柏木さんは再び歩き出す。


怒ってはいなさそうだった。だけど喜んでもいなさそう。


女の人って「きれい」とか「可愛い」とか言われるのって好きだと思ってたけど??


隣合って六本木に向かう最中、柏木さんが俺に聞いてきた。


「部長は…あたしがあまりにも酷い顔だったら、賭けの対象にはしなかったですか?」


俺はちょっと戸惑った。


う~ん…確かに最初は顔が好みだったからなぁ。


「あたしは女ですから、やっぱり可愛いとかきれいとか言われたいし、思われたいです。


でも見た目だけで判断されるのは、どうしても癪に障るんです」


あ~…それは


俺も、似たような経験はある。


連れ立って歩く女たちに「ホントにカッコいいわ~♪」なんてあっつい言葉をかけられたときは、え?顔だけ?って気がしたもん。


柏木さんの気持ち、分からないでもない。