Fahrenheit -華氏-



若い男たち二人組みは、あからさまに悔しそうな残念そうな苦い表情を浮かべて落胆していた。


こんな時間にこんないい女が一人でコンビニにいるかよ?


心の中で「バーカ」と舌を出し、俺は柏木さんの手元を覗きこんだ。


「部長は甘いもの好きです?嫌いじゃないですよね。あたしが入った初日に立て続けにどら焼きを二個も食べていらっしゃったから」


「え、そーだっけ?」


ってかそんなこと覚えてたのネ。


俺は勝手な想像で柏木さんが甘いものを好きじゃない、と思い込んでいた。


だって中身がハバネロよりも辛いんだもん。


「あたしも嫌いじゃないっていう程度です。あまり食べないですけど、時々無性に食べたくなるんですよね。


部長、半分こしません?」


柏木さんがプリンとレアチーズケーキのカップを俺の目線まで軽く持ち上げた。


「うん♪いいね…」


と言いかけたところで、ふっと疑問が過ぎった。







「どこで―――食べるの?」





柏木さんはきょとんとして俺を見ている。


「どこって……」


そう言って柏木さんは慌てたようにレアチーズケーキの方を棚に戻した。


「……ごめんなさい。あたし何も考えなしで…」


「……え?いやぁ…」


柏木さんて時々ちょっと―――ぬけてる?ってか頭が良いのに天然なところあるよね。


俺はちょっと笑った。


柏木さんは恥ずかしそうに顔を赤らめると、ちょっと口を尖らせて、


「じゃぁ部長のハウスで食べます?」


冗談ぽく上目遣いで見上げてくる。


俺だっていい歳した大人だ。これが冗談か本気かの区別は付く。


「ハウスって…俺は犬か!」


俺のつっこみに柏木さんはくすくす笑い声を漏らした。




「じゃ、あたしのハウスで」



柏木さんは目を伏せると、ほんのちょっと微笑んだ。






え……?冗談―――……だよね?