Fahrenheit -華氏-


気恥ずかしいのか、柏木さんはちょっと俯いて顔を赤らめると、


「チョコ…見て行っていいですか?」と言いながら菓子コーナーに移動していった。


俺も何となくその後に着いていく。


チョコレート菓子を陳列している棚を眺めている柏木さんに、スナック菓子を見ていたさっきの二人組みの男の一人が軽く彼女にぶつかった。


意図してない、ホントにハプニングだったのだろう。


だから俺も何も言わなかった。


「あ、すんません」


とこれまた軽い調子で謝る。


「いえ」


柏木さんは気にしていない様子で、気に入ったチョコレートが無かったのか、何も取らずにスイーツの冷蔵コーナーに歩いていった。


何となく俺もゆっくりと彼女の後を追いかける。


ここからだとスイーツコーナーで何かを選んでいる柏木さんの端整な横顔が見える。


すると二人組みの男が柏木さんの方を見て、ひそひそと何やら喋ってる声が聞こえてきた。


「やっべ!さっきのあの女。超可愛かった♪」


「横顔も結構良くね?一人っぽいし、声かけてみねぇ?」


なぬ!!?


彼女は俺の連れだっ!!!


俺は大股に柏木さんに歩み寄ると彼女の背後に立った。


柏木さんはプリンの段をじっと見ている。


そんな彼女の肩にさりげなくに手を置いて、抱き寄せるようにすると


「気に入ったのあった?」と耳元で囁いた。


俺のそんな牽制の動作も知らずに、柏木さんはのんびりと言う。


「ええ、プリンとレアチーズケーキで悩んでるんですけど……」


と言って二つを手に取って俺に見せてくる。


俺はちらりと二人組みの男の方へ視線をやると、ふっと涼しく笑ってやった。