Fahrenheit -華氏-


俺だったら―――


柏木人魚を釣り上げたら、彼女が望んでいる甘い言葉を毎日毎晩かけてあげるのに。


贈り物だってする。


綺麗な水槽に入れて、毎日愛でる。


お姫様みたいに扱って、大切に、大切にする!




俺は大きな水槽で優雅に泳ぐ柏木人魚を思い浮かべた。


『柏木さん、柏木さん!ジャーン!今日はケーキの差し入れだよ♪』


すると柏木人魚は水槽からちょっと上体を出して冷めた目で俺を見下ろす。


『またですか?私甘いものあんまり好きじゃないっていいましたよね』


そう言って柏木人魚はバシャンと水しぶきを上げ、水中に潜ってしまう。


『柏木さ~ん(泣)』


無情にも俺は背を向ける柏木さんに手を伸ばすしかない。




水槽の前には俺の貢物が山のように積まれ……





いかん。


そんなことが容易に想像できる…





「挙句の果て……」


柏木さんの言葉で俺は、はっと我に返った。


「……え?」





「あの男あたしがしないから、浮気をしだしたんです」