Fahrenheit -華氏-


柏木さんはタバコを消すと、綺麗な指でグラスを持ち上げた。


「あたし……部長みたいな人と付き合いたかった…」


ドキン!!


別にっ!!今からでも遅くないよ!!


Come on 柏木!!


な~んて、俺が考えてることも露知らず柏木さんは話を続ける。


「そんなこんなで、あたし…そのうち嫌になっちゃったんです。何て言うの……?」


そう言って言葉を濁し、柏木さんは手のひらをわなわなと震えさせた。


そして出し抜けに俺を見てくる。


一瞬びくりとしてしまった俺。


だって俺……


柏木さんの言いたいことが分かっちゃったから。


「あー…その…つまり……夫婦(夜の)生活っての??」


「ええ…まぁ。元々あたしそんなに性欲が強いほうじゃなかったから……」


ですよね。


そんな感じがする。


「気持ちが薄らいでいったら……その気にもなれなくて…


いつもは小さいことですぐ怒ったり、他人の前であたしをけなすし、いいことなんて全然言ってくれないのに、自分がしたいときだけ甘い言葉で誘ってきて……


でも、しないと不機嫌になるんです。


その気になれないのは、あたしがいけないの?あたしのどこかに欠陥があるの?


そう思って随分悩んだときもありました。


本気でカウンセリングを受けることも考えたことがあって…」


なるほど…


でもそれは柏木さんが悪いわけじゃない。


確かに、男は付き合ってる女に断られたりするとへこむし、拗ねたりするけど




体の繋がり以前に




二人の心の繋がりが薄らいでいたのだ。








なんて男だ、Mの野郎!!と思う反面、何となく納得してしまう自分も居る。


俺だってヤりたいときに、女に連絡してた口だから人のこと言えんな……




まぁ柏木さんの話を聞いて分かったことは、Mは典型的な「釣った魚に餌はやらない」タイプらしい。