Fahrenheit -華氏-


「それにあの人…すっごく我が強いんです。喧嘩をしても絶対勝てたためしがない。

あたしも気が強い方なんで、しょっちゅうぶつかりました」


せっかちにタバコを吸うと、嫌なものを全部吐き出すかのように、長々と煙を吐く。


気が強い…ってのは否定できん。


「部長は女性と喧嘩することってあります?」


急に話を振られ、俺はびっくりした。


「いや…どうだろ…」


正直ここ数年は喧嘩をするほど深い付き合いをしてなかった。


恋人と呼べる女が居たのは大学生のときまでだ。


一番長く付き合った女でも1年程だった。


その女と喧嘩したかなぁ。


ああ、でもデートの時間に遅れたとか、連絡寄越せとかで小さな喧嘩はあったな…


でも


「俺の場合は…いつもごめんなさいしてた。だって勝てる自信なかったもん」


情けない話だがホントのことだ。


俺は遠い目をしてカウンターの背後に並ぶ、リキュール類の瓶を眺めた。


思えば、当時付き合ってた彼女も気が強い女で、俺はずっと尻に敷かれっぱなし。


理不尽なことで怒られても素直に謝ってた気がする。


俺はいつも女に頭が上がらない。


あの綾子にでさえ、そうだ。




柏木さんは俺を見ると、ちょっと目をぱちぱちさせた。


「意外です……」


「え?そぉ?」


「ええ。だって男の人って頭で考えてものを言うでしょう?女はどうしても感情的になるから。部長は頭が良いから口で言って聞かせるタイプかと…」


う~ん…頭が良いって言われて喜ぶところ?


だけど、俺って言葉で捻じ伏せるタイプに見えるの?



何かフクザツ。