Fahrenheit -華氏-



「映画ですかぁ?あたしも結構好きですよ。両親が好きだからもしかしてDVDあるかも。見つけたら見てみますね♪」


緑川さんが猫撫で声でいった。


あっそ。


俺の心の中は寒々と氷点下。


でも柏木さんはもっと冷たい。


「緑川さん、ここ間違ってます。やり直してください」


ヒュゥウ~~っと木枯らしの音まで聞こえてきそうだ。


でもなんでだろ……


やっぱり柏木さん、どこか変。


声に張りがないし、どこか疲れた感じだ。





まぁ仕事が立て込んでてゆっくり休めてないんだろうな。


俺はそんな風に納得すると、やり掛けの仕事に取り組んだ。






午後になって会長室に用事ができた俺はエレベーターに乗り込んで、最上階に向かった。


エレベーターの扉が開くと同時に、


「待てって!」と裕二の緊迫した声が聞こえてきた。


「放してよ!ここは会社よ!!」


と綾子の声も。


裕二が綾子の腕を掴んで切迫した雰囲気で、食いかかっている。


綾子は必死にもがいてる様子だった。