Fahrenheit -華氏-


日付は昨日の日付で、時間は午後11:30になっていた。


メール着信:柏木さん


その文字を見て、俺は慌ててメールを開いた。





From:柏木さん

Sub:お疲れ様です。



スピーチ、拝見させていただきました。

素晴らしかったです。





たった二行だったけど、俺は嬉しかった。


やっぱり会場の隅に居たのは間違いなく柏木さんだった。





To:柏木さん

Re:お疲れ様です。


ありがとう♪

桐島とマリちゃんの件は本当にありがとうね。

無事式が行われたのは全部柏木さんのお陰です。

二人とも君に感謝していたよ。





メールを返信すると、俺はベッドに倒れこんだ。


そして携帯を握ったまま、泥のように眠った。


眠りの合間に俺は柏木さんの夢を見た。


夢の内容はいたって普通。普段通り、俺と柏木さんが同じブースで仕事をしている何の変哲もない夢だ。




でも




「結婚なんて一度で充分ですから」



「言ってませんでした?私―――バツ一なんです」







前触れもなく放たれた強烈なこの一言で、俺は飛び起きるということを何度も繰り返した。