Fahrenheit -華氏-


小さな拍手は、やがて一人、また一人と増え、最終的には会場を揺るがすような大きな拍手へと変わっていった。


桐島は満面の笑みで大きく拍手をしていたし、マリちゃんは目頭を押さえながら笑顔を向けてきた。


何となく気恥ずかしい思いで俺は席に着くと、


綾子が今にも泣き出しそうに目を潤ませて俺を見上げてきた。


「良かったわよ!」


「お前にしちゃ、上出来だな」


裕二がからかい半分に言ったが、微笑みは穏やかだった。


俺の言葉は思った以上に、ここにいるみんなに響いて染みこんでいたようだ。


それもこれも全部柏木さんのお陰……


俺は会場の隅をちらりと見たが、柏木さんの姿はすでになかった。


一瞬幻だったのでは?


とも考えたが、俺はその考えを否定した。





柏木さん………


ありがとね。



会場に居ない彼女に俺は心の中でそっと感謝の気持ちを伝えた。






披露宴は滞りなく進み、問題なく終わりを迎えた。


その後も慌しく二次会、三次会……


強引な裕二に連れまわされ四次会まで参加させられ、結局家についたのは朝の6時だった。


シャワーを浴び、アルコールと眠気と疲労と戦いながら、しまったままの携帯を取り出し着信の確認だけをする。



着信はなかったが、変わりにメールが一通。