「…………気付いて…いたの?」


紫利さんが珍しく余裕のない表情で眉を寄せていた。


触れてはいけない部分かもしれなかったけど、最後の最後に……いや、これで最後だから


俺はこの人にぶつかりたいと思ったんだ。





紫利さんはいつだって、俺の前で結婚指輪を外したことがない。


ダイヤをあしらった100万近くの指輪を。


今だってそのリングが彼女の左手薬指で存在を誇示するかのように光り輝いている。





「知らない振りをするのは楽だったよ。俺はあなたの気持ちがどこにあるのか知ってて、でもそれから目を背けていた。


深いところまで入り込む関係じゃなかっただろ?俺たち」


「……そうね」


紫利さんがちょっと悲しそうに苦笑いを漏らした。


「あなたと俺、利害が一致しただけで、最初からそこに何もなかったんだ。楽だったけど、俺は辛い現実と向き合うことにした」







俺は―――




柏木 瑠華が好きだ。




彼女の隣にいたい。


彼女の笑顔を見たい。


彼女と一緒に





幸せになりたい―――





たとえそれがいばらの道であろうと、




俺は彼女を想わずにはいられない―――