隣で優雅にミモザを飲んでいた紫利さんが、ちょっと流し目で俺に視線を寄越す。


「あら、やっぱり諦めるのね。まぁ啓人が決めたことに私は口出ししませんけど」


俺は財布から一枚万札を取り出すと、テーブルに置いた。


「悪りぃけど、俺帰るわ」


「帰るって?…え?来たばっかりなのに?それにこれじゃ多すぎるわ」


紫利さんが驚いたような、困惑したような複雑な表情を浮かべている。


俺は紫利さんに笑いかけて、頬にキスをすると、紫利さんは驚いたように目をみはった。







「手切れ金……にしちゃ少ないけど、これで終わり。足りなかったらまた請求して?」








驚いたように目を開いていた紫利さんだが、俺の笑顔を見ると彼女もまた小さく笑みを返してくれた。


「多いぐらいよ」


万札を人差し指と中指に挟んでひらひらさせる。


「あ~あ…お気に入りのおもちゃが壊れちゃったわ」


微笑みながら小さくため息を吐く。


「新しいおもちゃを新調したら?」


俺は軽く笑って返した。笑いながら、ふっと目を細める。




「俺は…紫利さんが欲しかったものをあげることができたけど、あなたが本当に望んでいることを叶えてやれない。


戻ったら?旦那のところに。


愛してるんだろ?」