Fahrenheit -華氏-


「ちょっとね……」


俺は曖昧に笑った。


「仕事?」


紫利さんが質問を投げかけてくると同時に、逆三角形のカクテルグラスが俺の前に置かれた。


乳白色の液体がゆらりと揺れる。


その液体に俺の顔がちらりと映った。


確かに……ちょっとの間でやつれたかもな…


俺は紫利さんに笑いかけた。


「仕事じゃないよ」


「じゃぁプライベートで?何かあった?」


「んー……まぁ…」


曖昧に返事を返す俺に紫利さんは焦れったそうに唇を尖らせ、やがて何かを思いついたのか、手をぽんと打った。


「分かった。女でしょ」


「え゛??」


俺としたことが…上手く切り替えすことができなかった。


「あらぁ、図星?ついでに言うと、その女はこの間言ってたあなたの部下ね」


美人の、と紫利さんはにっこり微笑んで付け加えた。


俺はギムレットを少しだけ喉に通すと、


「はい。その通りでございます」と素直に観念した。


何といっても紫利さんは銀座の高級クラブの元売れっ子ホステス。


巧みな話術や、人の感情を読み取る能力に長けているわけで、俺の考えてることなんて透けるように見えているに違いなかったから。