Fahrenheit -華氏-


メール受信:紫利さん


ん?


「……これはまた随分久しぶりだな…」


呟いて、メールを開けると、





やっほ~ケイト♪元気してる??


最近あなたから連絡ないから寂しいわ。


いつもの場所で待ってるわ。来れたら来てちょうだいネ。





いつもどおりの文面に、俺は何故かほっと安堵の息を吐いた。



国道418号線沿いを北上して恵比寿ガーデンプレイスの手前。


いつもの高層のホテルのバーラウンジ。


そのカウンターに紫利さんは一人でカクテルを飲んでいた。


今日は前回の和服から一転、濃いグレーのスーツを粋に着こなしている。


紫利さんは俺を見つけると手を振った。


「ケイト!」


「久しぶり。だいぶ待った?」


「待ちすぎておばあちゃんになっちゃうところだったわ」


紫利さんは色っぽく微笑んだ。


「ごめん。ギムレット」


俺はカウンターの向こうにいるバーテンにオーダーし、席に落ち着くとタバコに火を灯した。


「啓人、疲れてる?」


俺の横顔を見て、紫利さんがそっと指で俺の頬をなぞる。


変なの……


紫利さんに触れられても、何にも感じない。


あのドキッとして鼓動がひっくり返るような緊張感もないし、それでいてどこかほんわかと温かい気持ちもない。



俺をドキドキさせるのも……


温かくさせられるのも…




柏木さんだけだ。